
沖縄らしい容赦ない湿気がたちこめる中、足早に駆け込んだロビーで一息つく間もなく座席に座り、汗を拭う観客の熱気が充満している会場は、最終公演独特の「期待」と「寂しさ」が入り混じった空気が漂っていて、既に別会場でコンサートを楽しんで最終公演の沖縄に乗り込んできたと熱心なファンと思われる人達の少し余裕のある表情と、初めて目にする沖縄のファンの緊張感のある表情の差が、ツアーの最後だなと感じる光景でもある。
小林の切れのあるギターリフから始まる「24時間の旅」のイントロが流れた瞬間に客席は総立ち。
「この街のどこかに」と2曲続き、宮沢の「オキナワ~!帰ってきたぞ~!」というMCがさらに客席のテンションを上げていく。
11ヶ所12公演の街で様々な人との出会いを経験し、12ヶ所目の街まで、音楽と共に旅してきたTHE BOOMの最後の宴がスタートした。
宮沢が「THE BOOM の24年間の歩みを表現するような古い曲から、そして新しい曲からも選曲してお届けします。」と話すと、客席からは親しみのある声がかかり、今までの会場とも違う独特の盛り上がりを見せている。やはり、宮沢自身が「第2の故郷」と言っているように、ステージ上のメンバーと客席の一体感や駆け引きは、観ていて思わず鳥肌が立ってしまうほど絶妙な間合いで進行していく。会場ごとに、それぞれ感じ方や表現方法は異なるのは当然ではあるが、ここ読谷村の会場で生まれているグルーブは独特な世界がある。
今回のツアーでは、中盤で行われている小林と山川、栃木の3人、宮沢と栃木の2人というそれぞれのアコースティックセッションは、THE BOOMのこれまでの曲の新しい魅力を表現しているコーナーで、宮沢と栃木は「中央線」を披露。さらに、そのコーナーで行われたドラムの栃木1人のMCは、コンサートとは思えない和やかな雰囲気で進んでいく、それがかえって観客の心をつかんでいき、これから始まる沖縄の音階とリズムの洪水へ誘っているようでもある。
「忘んなよ島ぬくとぅ」、「情ションガイネ」、「ひゃくまんつぶの涙」、「ひのもとのうた」が続き、客席でのカチャーシーの激しさが増していく。「情ションガイネ」では、地元の女の子が二人登場し、宮沢と踊りを披露。まさに、日本のお祭りのシーンを彷彿とさせる楽しい光景となっていた。総勢16名の琉球國祭太鼓のエイサー隊が登場して演奏された「シンカヌチャー」が始まると、太鼓の迫力に負けじと、観客が会場の床を踏み鳴らし、地響きを感じるほどテンションが上がり続けている。祝いの席で踊られるカチャーシーに相応しく、宴の最後に向けての準備が整っていく。
テンションが上がりきった後に、宮沢が観客を諭すように優しく語り始める。
20年前に「島唄」を作った時の沖縄の人達への気遣いや不安、当時はヒットするなんて想像もしてなかったこと、想像をはるかに超えた批判を受けたこと、今も尚、この曲を歌い続けなければいけない理由、宮沢自身の悔しさや強い意志を感じることができる強いメッセージを押し付ける風でもなく、丁寧に想いを伝えている。そんな言葉を聴きながら、客席はステージ上のメンバー、宮沢から発せられる言葉を一言でも聴き逃さないように集中している。そんな張りつめた空気を、一気に解放するように小林のギターのイントロが流れ始めた。20年前の「島唄」に近いアレンジだが、20年間演奏し続けてきて、新たな気持ちでレコーディングされた「島唄」は、力強さを増しているように感じる。
宮沢の喉が悲鳴をあげているようでもあり、この曲に込められた情念の叫びのようにも聴こえる歌声が多くの観客の涙を誘っている。場所柄、他のどの街とも違う受け止め方をしてしまうせいなのか、ただ悲しいという涙ではなく、「歌ってくれてありがとう」という感謝の涙のようにも映る。それは、観客の表情に素直に表れている。
アンコールでは、今回のアルバムで最も伝えたかったと言っている「人は誰にもそれぞれの故郷があり、その場所がその人にとっていちばん大切な場所だと思う」というメッセージが込められた「世界でいちばん美しい島」が紹介される。
客席にいた「くるちの杜プロジェクト」や音楽活動を通じてお世話になっている方、島唄のビデオクリップに出演した子供たちなどがステージに招かれた後、サプライズでTHE BOOM の音楽が大好きで小さい頃から聴いていたという島袋寛子さんが登場。彼女も、沖縄の音楽を愛するアーティストの一人でもある。
島袋寛子さんとのデュエットに加えて約50名のゲストと共に披露された「世界でいちばん美しい島」。
沖縄はもちろん、それぞれの故郷への想いで歌われたこの曲は、ニューアルバムのタイトルでもあり、とても大切なメッセージが込められた曲でもる。
アンコール終了後に、さらにもう1曲、彼らの原点でもある「原宿ホコ天」のことを歌った「不思議なパワー」を歌い終わり、約2時間半に及ぶコンサートが終了した。
ステージを降りて来たメンバーは、達成感はもちろん、久しぶりのTHE BOOMとしてのツアーで自分たちにのしかかっていたプレッシャーと向き合ってきた時間からの解放感からか、歓喜と疲労が入り混じった複雑な表情をしているように見える。関係者に声をかける宮沢の言葉には、感謝の言葉はもちろん、始まったばかりだとでも言いたそうな、次を見据えた言葉が次々に出ているのを見ていると、THE BOOMというバンドは、歌いたいから歌っているのではなく、歌うべきことや伝えるべきことがあるから、形態や手法を変えて歌い続けているんだなろうなぁ~と感心した1日でもあった。

4/20 横浜BLITZ(神奈川県)
4/26 Zepp Namba(大阪府)
4/27 Zepp Namba(大阪府)
4/29 Zepp Fukuoka(福岡県)
5/1 添田町オークホール(福岡県)
5/4 Zepp Nagoya(愛知県)
5/6 倉敷市芸文館(岡山県)
5/11 三木町文化交流プラザ(香川県)
5/12 かしはら万葉ホール(奈良県)
5/16 えずこホール仙南芸術文化センター(宮城県)
5/18 Zepp Tokyo(東京都)
5/19 八千代市市民会館(千葉県)
5/25 読谷村文化センター鳳ホール(沖縄県)